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この記事のみを表示する第一話 ゴジラの味方

「よろこびのなかにもかなしみが準備されている」

ゴジラの味方


 以下の文章は、新作長編「よろこびのなかにもかなしみが準備されている」の「第1話 ゴジラの味方」の冒頭です。

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  よろこびのなかにもかなしみが準備されている



    1

 ゴジラがガッコを休んだ。水爆や放射能をぱくぱく食べて生きているやつがいったいどうしたのだろう。ゴジラの席は曜一の真うしろにある。背中がひやひやする。冷風が吹いてくるような気がする。
 曜一はマンションの三階、303号室に住んでいるが、その隣人(304号室)がゴジラだった。それこそ物心がついたころからいっしょに遊んでいたが、小中はともかく、高校までいっしょになるとは夢にも思わなかった。曜一はゴジラ専用の味方、ボディガードのようなものだった。つきあってなんていない。残念ながら。というのは、ゴジラはいわゆるクールビューティーだったからだ。痩せていて、くびれるところはくびれ、胸はでかい。スタイルがよくきれいなボディーラインをしているわりには(ここが肝心)清純派ふうだった。これは、男の劣情をそそる。クラスでひそかにねらっている男だって、たくさんいた。先週だって曜一は廊下に強制的に連行されて、よもやつきあっているわけではあるまいな、と詰問されたくらいだ。曜一はもちろん、きっぱりと否定した。事実だからだ。そしてあのことを知っているからだ。
 放課後、曜一は図書委員(二年め)だったので、一階の渡り廊下を歩いて、別棟の図書室にむかった。図書室はその棟の三階にあり、緑の木々に囲まれている。この高校の図書室は、開校以来の蔵書をすべて所蔵していた。古くなったからといって簡単に廃棄したりはしない。図書室の蔵書の水準がそのまま高校のレベルを示すというのが、初代校長以来の考え方で、伝統となっている。
 そういうこともあって、この図書室は高校の図書室としてはかなり広いスペースを持っていた。曜一はカウンターにすわった。生徒の利用はたいしてないので、たいていは曜一の読書タイムと化す。曜一は図書室で借りた本を取り出して、読み始めた。アガサ・クリスティーの小説だった。遠くの木々で鳥が啼いている。
 壁にはまっている時計に視線を送ると、返本台の本を書棚に戻す時間だった。曜一はべつの図書委員に声をかけて、立ちあがった。返本台にある本を分類順に書棚に並べ直すのは、図書委員の仕事だ。返本台のうえを見て、曜一はぎょっとした。たくさんの本が乱雑に積み上がっていたからだ。返本台に乗りきらずに、閲覧机のうえにも積み重なっていた。両方であわせて、百冊はあった。誰かのいたずら、あるいは図書室に不満を持っている者のいやがらせだろうか。でもなんにしろ、本をもとの書棚に戻さなければならない。曜一はたっぷりと時間をかけて、本を順番どおりにならべた。
 作業の途中で、ポケットからスマホを出して見た。うっかり気がつかなかったが、メールが届いていた。あ。曜一の口から思わず声が洩れた。ゴジラからだったからだ。

 きょう、帰ってきたら、ちょっとうちに寄ってほしい。話したいことがあるの。          未来     
                                 
 ゴジラの本名は、鳴宮(なるみや)未来(みき)だった。甘酸っぱい思いがちょっと口のなかにわいてきた。

       2

 曜一はエレベーターで三階にあがった。自分のうちに一度帰ると、カバンを置いて、304号室のベルを鳴らした。インターフォンからゴジラのママの声がして、ドアを開けてくれた。
「あら、曜一くん」
 ゴジラのママはとびきりの美人で、明るくて優しい。会うたびにテレビのニュースキャスターの誰かに似ていると思うのだが、名前が誰なのか、思い出せない。
「未来ちゃんの、からだの具合はどうですか?」
 曜一はいった。ゴジラのママのまえでは、未来ちゃん、と幼稚園の年少さんからの呼び方で呼ぶ。
「なんだか熱っぽくて、頭が痛いんですって」
「風邪ですか?」
 うっかり聞いてしまった。
「ねえ。夏風邪をひくなんて、馬鹿よねえ」
 ゴジラのママはにっこりときれいに笑っていった。目元は笑っていなかった。さりげないのに、妙に含みがあったりする。こわい。


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